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荒川頭首工の紹介~平成の名水百選 清流荒川の用水施設

新潟県農地部 風間 十二朗


1.施設概要

 位置:新潟県村上市花立458
 取水量:15.7m3/s(左岸7.2m3/s、右岸8.5m3/s)
 堰体:フローディング可動堰、堰長294m
 可動堰:ローラゲート43.6×5.0m×5門、転倒ゲート28.0×2.3m×2門
 付属設備:魚道(階段式、幅5m)、操作室、舟通し(幅2.5m)

荒川頭首工の全景(左岸側下流から上流を望む)
荒川頭首工の全景(左岸側下流から上流を望む)

〔荒川頭首工の仕組〕
 〔荒川頭首工の仕組〕 中央に堰上げゲート、手前が転倒ゲート。河川流量に応じて各ゲートの操作を行っています。この日は河川流量が多かったため、左右岸の転倒ゲートから一定量越流し、かつ中央の堰上げゲートからも流下させています。※手前にあるのは魚道です

①園内の水辺の風景
荒川頭首工の受益3,400ha 村上市(旧荒川町、旧神林村、旧村上市)及び胎内市に及びます

2.村上地域の農業

 村上地域の農業は、日本海に面した平野と山間地の地形を活かし、コシヒカリをはじめとする米作りと、村上牛に代表される畜産が盛んな複合経営が営まれています。主な特徴は、岩船米と呼ばれる高品質な米や、畜産物の村上牛は高級ブランド牛肉であり、稲作との複合経営を行う農家によって生産されています。

岩船地域の田園風景(低平地の水田が広がっています)
岩船地域の田園風景(低平地の水田が広がっています)

3.荒川頭首工のあらまし

 荒川頭首工は、村上市(旧荒川町、旧神林村、旧村上市)及び胎内市の約3,400haの農地に用水を供給するため、国営荒川農業水利事業により昭和33年に竣工しました。その後、昭和42年8月の羽越豪雨により、花立地点で8,000m3/sという大出水に見舞われ、荒川取水堰も甚大な被害を受けました。このため建設省(当時)の直轄工事により旧施設から約280m下流に新しい取水堰が昭和48年に造成され、現在にいたっています。
 荒川頭首工は、荒川沿岸土地改良区が昭和48年4月に建設省から操作委託を受けて利用していましたが、施設規模が大きいことや河川管理に与える影響を考慮し、平成3年以降新潟県が管理を行っています。
 この地域は、磐梯朝日国定公園特別区域の西端に位置し、荒川渓谷の名所として観光的な役割も担っています。一方上流には赤芝ダム、岩船ダム、大石ダム等があり、これらの発電による流況の逆調整等、上流ダム群と密接な管理形成を成立し、下流域における農用地のみならず宅地等の浸水防止など、利水及び治水の両面にわたって管理されています。


4.荒川頭首工の役割

 荒川頭首工は左右岸ともに取水する形式の頭首工です。受益面積は村上市の水田面積約6,400haの約半分に相当する3,400haであり、左右岸の取水口から河川の水を取水し、用水路を通って水田に水を供給しています。荒川頭首工から下流側には左岸側に約20㎞、右岸側約38kmの幹線、支線用水路が造成されています。

右岸取水口とその下流。下流は何キロにもわたる用水路で水を送水しています
右岸取水口とその下流。下流は何キロにもわたる用水路で水を送水しています。

左岸取水口とその下流。左岸側は水道水にも利用し、冬期間も通水しています。
左岸取水口とその下流。左岸側は水道水にも利用し、冬期間も通水しています。


5.施設の管理

 荒川頭首工の管理は、新潟県が管理者として管理を行っていますが、実際の管理操作は県から受託している荒川沿岸土地改良区が行っています。
 土地改良区とは、土地改良法に基づいて設立された公法人で、農業用施設(頭首工、用排水路、用排水機場、農道、ため池など)を維持管理する組織で、地域農業の基盤を支える役割を担っています。
 荒川の流量を把握し、きめ細かくゲート操作を行って取水量の調整を行っています。

荒川頭首工管理施設
荒川頭首工管理施設

6.二度の災害を乗り越えて

 荒川頭首工は羽越水害、令和4年8月豪雨の2度の大災害を経て、現在も稼働を続けています。過去の災害の状況は次のとおりです。

1)羽越水害

 羽越水害は昭和42年8月の新潟県北部を襲った記録的な豪雨災害で、最大総雨量700mmを越える降雨により、荒川を始めとする多くの河川が氾濫し、死者行方不明者134名、被害総額1,000億円(現在の貨幣価値で約4,000億円)超の災害でした。
 この災害で荒川は、各支川流域で発生した山地崩壊、土石流などにより土石、流木等が流出した結果、河川流量3.2千m3/s(花立地点)に対し、2.5倍に相当する推定8.0千m3/sの流量となり、各所で溢流氾濫し、本流沿い部落に多大な被害が発生しました。
 荒川頭首工は、この時現在の位置よりも約280m上流の貝附付近に設置されており、稼働開始から9年が経過していました。この災害で、壊滅的な被害を受けたため、新しい河道計画に見合った位置として、現在の花立地内に再建設されることとなりました。
 復旧された荒川頭首工は昭和48年に完成しましたが、この間の農業用水については新潟県農地部が応急復旧工事を施工し、確保しました。
 (羽越災害復旧工事誌(北陸地方建設局)より引用)

2)令和4年8月豪雨

 令和4年8月3日、下越地方を中心に線状降水帯が発生し、これに伴う豪雨により、本県の統計開始以来の極値を更新する記録的大雨となりました。関川村下関では累計雨量569mmとなるなど村上市、関川村、胎内市などに大きな被害をもたらしました。
 幸いにも人的被害は重症者1名でしたが、被害総額は新潟県全体で約350億円に上り、うち村上市内が約200億円と6割を占めています。
 この災害の特徴は、山地や森林からの流木が大量に発生し、土砂とともに荒川の支川や本川に流れ込んだことです。このため、荒川頭首工の堰上げゲート、左右岸の取水口、及びこれに接続する用水路等に堆積土、流木が大量に堆積し、取水困難となりました。
 災害発生は8月上旬であり、水田への用水供給が必要な時期であったことから、暫定復旧として、堆積した土砂流木の撤去に取り掛かりました。一日でも早い通水を実現すべく24時間体制で撤去を行った結果、発災後10日後の8月14日に通水が再開され、水稲への二次被害を防止することが出来ました。
 本格復旧についても、稲刈り後に着手し、翌春の作付け時には全ての用水路とほとんどの水田復旧を終え、営農への影響を最小限とすることが出来ました。

豪雨時の荒川の様子(左に荒川頭首工、流木交じりの泥水が流れています)
豪雨時の荒川の様子(左に荒川頭首工、流木交じりの泥水が流れています)

右岸側取水口は斜面が崩れて土砂で埋まりました
右岸側取水口は斜面が崩れて土砂で埋まりました

左岸側取水口の様子
左岸側取水口の様子

7.荒川頭首工の見どころ

 荒川の清流から多くの水を取り入れている4月末から9月上旬が荒川頭首工の見ごろです。荒川の清流がキラキラときらめき、左右岸の取水口から満々と取り入れられ、接続する下流水路に水が流れていく。その流れは一見の価値があります。そして秋にはその水が豊かな実りをもたらします。荒川頭首工から水を引いている水田地域は荒川左右岸下流側に連なっており、春、夏、秋と稲の成長によって色を変る田園風景も、見る人の目を楽しませます。


8.周辺スポット

1)瀬波温泉

 村上駅から車で7分、美しい海岸沿いに立ち並ぶ旅館、ホテル。おすすめは冬の瀬波。
 甘海老、カニ、ブリなど日本海の幸が寒さと共に旨さを増す。地酒やコシヒカリと共に。雪景色の中、心まで温まる湯につかり、冬ならではの瀬波の魅力が満喫できます。

2)特産物

 鮭のまち、村上の鮭料理は百を超える。頭から尾。内臓まですべてを使い切り調理します。はらこ、酒びたし、焼き漬け、塩引きなど本物の味わいが堪能できます。その他にも村上牛、お茶、お酒、お米など、村上ならではの特産が沢山あります。

3)農産物直売所

 道の駅神林や道の駅笹川流れに併設されている農産物直売所で、地域の新鮮な野菜や特産品を購入することが出来ます。

4)松尾芭蕉の句

 芭蕉は1689年、弟子の曽良を伴った「奥の細道」の旅で、村上に立ち寄りました。村上市内の各地に俳句を刻んだ石碑が佇んでいます。
 しかし、この句は奥の細道の曽良の句集にも載っていないとか。

芭蕉公園に刻まれている句 さはらねば汲まれぬ月の清水かな
芭蕉公園に刻まれている句 さはらねば汲まれぬ月の清水かな


9.おまけ

 皆さんは、分水工を知っていますか。農業用水を地域ごとに分けて水を分配する施設です。荒川頭首工のように広域に水を送水する施設には多くの分水工が設置されています。この分水工の中でも、特にその形式で人気の高いのが円筒分水工です。円形のお風呂から水がこぼれるような形状ですが、誰が見ても水の配分量が分かるようにできています。
 荒川頭首工の下流域にもいくつかの円筒分水工が残っています。稲のある時期には水が流れ、きれいな分水が行われています。ぜひ、探してみてください。
 乙金谷2号用水機場分水工(村上市長政地内)、平林円筒分水工(村上市平林地内)